メープルを迎えるまでの物語 ─ 動き出した運命

Maple diary メープル日記

電話に出たのは、若そうな男性の声だった。

「昨日、トイプードルちゃんのことで問い合わせをした者ですが……」

そう切り出すと、

「どのトイプードルでしょうか?」と返ってきた。

そっか。

トイプードルちゃんは、他にもいるよね。

一瞬迷って、

「生体価格が◯万円の、女の子です」

と答えてしまった。

金額で言うところじゃないだろう、と

心の中で自分にツッコミを入れながら。

店員さんは「確認します」と言って、

いったん電話口を離れた。

ほんの短い時間のはずなのに、

やけに長く感じられた。

そして戻ってきた声が言った。

「まだいますね。売れていませんよ」

その一言に、胸の奥がふっと緩んだ。

続いて、

昨日メールをくれた店員さんに取り次いでもらった。

話の内容は、メールで聞いていたこととほぼ同じだった。

近くの店舗に移動することになると、

見学は早くても来週になること。

それまでに売れてしまう可能性があること。

キープのような対応はできない、ということ。

ただし、

もし可能であれば、こちらの店舗まで来てもらえないか?

という提案もあった。

移動すれば、

トイプードルちゃんの負担も少なくて済む。

その言葉に、はっとした。

確かに、

「会いたい」というこちらの都合だけで、

何度も店舗を移動させるのは

犬にとっては大きな負担だ。

安易に「移動してください」とも言えなかった。

近くではないが、行けない距離じゃない。

「明日、伺います。お昼までには行けると思います」

そう伝えると、

そのトイプードルちゃんは“商談中”という扱いにして、

販売を一時ストップしてくれると約束してくれた。

待っててね、トイプードルちゃん。

そうして私は、

次の日、東京へ向かうことになった。

タイトルとURLをコピーしました